忍ばせる?明らかにする?リアルな生成AI導入アプローチ
目次[非表示]
- 1.「課題解決型オーダーメイドAIソリューション」とは?
- 2.あなたはAIを活用していますか?
- 3.DIVXにおける生成AIの利用率
- 4.高い利用率を達成した背景
- 5.他社での再現は難しい?
- 6.個人の課題意識の重要性
- 7.個人の意識に頼らないアプローチ
- 8.生成AIを忍ばせるアプローチ
- 9.業務フローが変わる例と変わらない例
- 9.1.業務フローが変わる例
- 9.2.業務フローが変わらない例
- 10.「生成AIを忍ばせるアプローチ」の有効性
- 11.生成AIを明らかにするアプローチ
- 12.両アプローチのバランスが鍵
- 13.おわりに
- 14.お悩みご相談ください
こんにちは。DIVXアドベントカレンダーの初日を迎えました。本日の記事は、CTOの田島が担当いたします。
「課題解決型オーダーメイドAIソリューション」とは?
弊社DIVXのホームページをご覧いただくと、「課題解決型オーダーメイドAIソリューション」という大きなメッセージが目に飛び込んできます。この言葉の通り、私たちはお客様の課題を解決するために、オーダーメイドのAIソリューションを提供しています。
このメッセージは非常に魅力的ですが、実現するのは容易ではありません。ITに関わる者の使命は、ITの力で現実の課題を解決することだと考えています。しかし、AIをどう活用するか以前に、まず解決すべき課題を見つけること自体が難しいです。多くの人は何かしらの課題を抱えていると思いますが、自身が「これが課題だ」と思っているものが、本当に解決すべきものとは限りません。漠然と「これが課題かな?」と感じていても、実際には別の課題を解決する必要があることも多々あります。
あなたはAIを活用していますか?
この記事を読んでいる皆さんの中で、「私はAIを活用している」と断言できる方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?もし「活用できているよ!」という方がいらっしゃるなら、その方は自分の中で解決したい課題を明確に持っているのだと思います。私がそう思う理由を、生成AIの利用率と関連付けて説明したいと思います。
DIVXにおける生成AIの利用率
DIVXでは、社員に対して「DIVX GAI」という生成AIのチャットボットサービスを提供しています。これはエンジニアを含む全社員の業務効率化に寄与しており、2023年5月頃から毎月利用状況のデータを収集・分析しています。その結果、1年半以上経過した現在でも、ほぼ100%に近い利用率を維持しています。つまり、DIVXは生成AIの利用率がほぼ100%の会社ということです。総務省が発表した2024年版「情報通信白書」によれば、日本の企業で生成AIを利活用している割合は46.8%とのことですので、その数値を大きく上回っています。
高い利用率を達成した背景
では、なぜDIVXではここまで利用率が高いのでしょうか?
一つの要因として、弊社CEOである物部が昨年のアドベントカレンダーで執筆した記事「生成AIの利用率95%以上を維持する仕組みのつくり方」の中で紹介した戦略が効果的に働いていると思います。
記事の概要をまとめると下記のようになります。
- 目標設定の明確化: DIVXでは、全社員に対して生成AIの使用を義務化し、具体的な目標を設定しました。特に、ChatGPTとGitHub Copilotの利用を義務付けることで、全社員が生成AIを活用する環境を整えました。
障害の除去: 目標達成に向けて、費用負担や著作権問題などの障害を早期に特定し、解決策を講じました。例えば、生成AIの利用にかかる費用は会社が負担し、法的なリスクについても専門家と相談することでクリアにしました。
心理的障壁の低減: 従業員が生成AIに対して抱く不安や懐疑心を軽減するために、義務化という強いメッセージを発信しました。また、日報を通じて他の従業員の利用状況を共有し、ノウハウを広めることで利用促進を図りました。
社内ツールの開発: ChatGPTのクローンツール(DIVX GAI)を社内で開発し、従業員が安心して利用できる環境を提供しました。結果的に利用状況の集計も可能であり、効果的な活用が促進されています。
これらの施策が功を奏し、生成AIの利用率95%以上を維持することができました。この記事から1年が経過しましたが、当時よりさらに利用率や利用回数が向上している状況です
他社での再現は難しい?
では、他の企業や団体もDIVXと同じように実施すれば、この数値を達成できるのでしょうか?
私の肌感では、それは難しいと思っています。確かに組織として生成AIの活用を支援する環境を整えることは重要です。しかし、それだけでは1年以上経過した今も100%近い利用率を達成する状況を作るのは難しいと考えています。
個人の課題意識の重要性
その状況を作るためには、組織が支援してくれている大前提に加えて、社員一人ひとりが「自分自身の中で解決したい課題」を持っている必要があるはずです。組織が最大限AI活用を支援するというビッグウェーブに乗りつつ、自分の課題のソリューションとしてうまく生成AIを適合させられた人が、今もなお生成AIを活用し続けているということだと理解しています。
だからといって、生成AIを活用するかどうかを「本人に解決したい課題があるか?」という抽象的な要素に依存させてしまうと、組織全体への再現性の高い導入は難しくなります。確かに個人の課題意識は生成AI活用の上で重要な要素ですが、本気で組織に生成AIを導入したいのであれば、そこだけに着目してはいけません。
個人の意識に頼らないアプローチ
では、社員一人ひとりが課題を感じているかどうかに関わらず、生成AIを活用する状態を生み出すアプローチはないでしょうか?
社員が課題を感じていなくても、生成AIを活用したくなる状況が生まれるのはなぜかを考えてみると、それは組織の経営陣が解決したい課題を持っているからです。この課題感を解決するために、先ほどの個人に依存する考えで取り組むのはおそらく難しいです。なぜなら、この場合の課題感を持っているのは経営陣であり、個人ではないからです。よって、個人の意識に左右されず、確実に導入できる方法はないかと考えたくなります。
おそらく、そのアプローチとは、究極的には社員が生成AIを活用していることすら意識しない形で組み込むことではないでしょうか?
生成AIを忍ばせるアプローチ
もし生成AIを導入するなら、これまでになかった新しい業務に対して、最初から生成AIを組み込んだ業務フローを構築する方が浸透しやすいと言われています。一方、既存の業務フローに生成AIを導入しようとすると、うまくいかないというのは、生成AI導入に取り組んできた方なら共感できるかと思います。つまり、既存の業務フローに生成AIを導入するなら、そのフローを一切変えずに生成AIを導入するという、一見魔法のようなアプローチが必要なのです。
しかし、エンジニア的な視点で既存の業務フロー全体を分割して考えていくと、それはモジュールの差し替えと同じ考え方で実現できることに気づきます。
既存の業務フローは、ユーザーインターフェース(UI)と密接に結びついています。UIが変わってしまうと、ユーザーは業務フローが変わったと認識します。しかし逆に言えば、UIが変わらなければ、ユーザーは業務フローが変わったと感じることはありません。アプリケーションにとってUIは非常に重要ですが、システム全体がUIだけで構築されているわけではありません。ユーザーの目には見えない裏側で、多くのシステムが連携して動いています。このユーザーに見えない部分に生成AIを導入し、生成AIを活用している状態を目指すアプローチであれば、業務フローを変更せずに生成AIを導入できます。これを「生成AIを忍ばせるアプローチ」と呼ぶことにします。
ここまで抽象的な話が続いたので、「業務フローが変わる例」と「業務フローが変わらない例」で具体例を示しましょう。
業務フローが変わる例と変わらない例
業務フローが変わる例
手動入力から音声入力への変更
これまで営業スタッフは、日報を手動でパソコンに入力していました。ここで、音声から文字起こしをする生成AIを導入し、スマートフォンに話しかけるだけで日報が自動作成されるシステムに変更します。これにより、手入力の手間は省けますが、入力方法や使用するデバイスが変わるため、操作手順や業務フローが大きく変わります。スタッフは新しい操作方法を学ぶ必要があり、慣れるまでに時間がかかることもあります。
AIチャットボットへの移行
従来は、顧客からの問い合わせ対応を電話やメールで行っていました。ここで、AIチャットボットを導入し、ウェブサイト上で24時間対応のチャットサービスを開始します。これにより、顧客はいつでも問い合わせが可能になりますが、問い合わせ方法やコミュニケーション手段が変わるため、顧客側にも新しい使い方を理解してもらう必要があります。また、社内のサポートスタッフもチャットボットの運用管理や新たな対応フローを学ぶ必要があります。
業務フローが変わらない例
手動入力の効率化
営業スタッフはこれまで通り日報を手動でパソコンに入力していますが、生成AIによって入力内容を自動的に分類・分析し、報告書やグラフを自動生成します。スタッフの入力画面や操作方法は変わらず、追加の負担もありません。しかし、生成AIが自動的にデータ処理を行うことで、上司や経営陣はより迅速に情報を把握でき、意思決定のスピードが上がります。このように、UIが変わらないため、スタッフは業務フローが変わったと感じることなく、生成AIの恩恵を受けることができます。
顧客サポートでの応答支援
顧客からの問い合わせ対応を従来通り電話やメールで行っていますが、サポートスタッフが使用するシステムの裏側に生成AIを導入します。生成AIによって過去の問い合わせ履歴やFAQデータベースを解析し(RAG)、スタッフに最適な回答候補をリアルタイムで提示します。スタッフの使用する画面や操作方法はこれまでと同じで、業務フローも変わりません。しかし、回答の精度と速度が向上し、顧客満足度が高まります。UIが変わらないため、スタッフは新たなトレーニングを受ける必要もなく、スムーズに業務を続けられます。
※究極的には電話やメールも完全にAIが対応できるようになるとは思いますが、現時点ではそこまでは難しいと考えています。
「生成AIを忍ばせるアプローチ」の有効性
これらの例から分かるように、業務フローが変わる例では、UIの変更によりユーザーの操作や手順が大きく変化し、新たな学習や適応が求められます。結果的に、現場での生成AIの導入がうまく進まず、失敗する可能性があります。一方、業務フローが変わらない例では、UIや操作方法はそのままで生成AIを導入しています。表面的には従来と同じ操作感でありながら、裏側で生成AIが機能することで、現場の効率化や生産性向上が実現されています。一見似たような取り組みでも、UIが変わらないことでユーザーは業務フローの変更を意識せずに済み、生成AIを活用していることに気づかない場合もあります。
このように、ユーザーの負担を増やすことなく、生成AIを導入することで組織としての生産性向上を図ることが可能です。特に、大規模な組織や多くの社員が関与するシステムでは、このアプローチが有効だと考えています。このアプローチであれば、生成AIの利用率100%達成も夢ではないはずです。
まとめると、組織に生成AIを導入する際には、個人の課題感や意識に頼らず、既存の業務フローやUIを変えずに無意識に生成AIを活用するアプローチが有効だということです。その結果、社員はこれまでと同じ操作感で業務を進めながらも、生産性の向上や業務効率化を実現できます。
生成AIを明らかにするアプローチ
一方で、生成AIによって新しい業務フローを構築し、抜本的な業務改革を行うことも重要です。業務を生成AI活用を前提としたやり方に刷新することで、大きな効率化や新しいビジネスモデルの創出が可能となるでしょう。さきほどのアプローチと対比させて、これを「生成AIを明らかにするアプローチ」と呼ぶ事にします。
両アプローチのバランスが鍵
つまり、生成AIを導入するアプローチとしては「生成AIを忍ばせるアプローチ」と「生成AIを明らかにするアプローチ」の両方をバランスよく導入していくことが重要だと言えます。既存のフローを活かしつつ生成AIを取り入れることで短期的な効果を得ながら、同時に長期的な視点で生成AIに適した新しい業務フローの構築にも取り組むことで、組織全体の競争力を高めることができると考えています。
おわりに
これからの時代、生成AIはますますビジネスの現場で重要な役割を果たすと思います。だからこそ、組織全体で生成AIを上手に取り入れることが求められています。私たちDIVXは、これからも両方のアプローチで「課題解決型オーダーメイドAIソリューション」を提供し、お客様のビジネスを支援してまいります。
お悩みご相談ください
「生成AIを忍ばせるアプローチ」と「生成AIを明らかにするアプローチ」のいずれか、または両方を導入したいとお考えの担当者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。お話を伺った上で、AIのアプローチが有効かどうか、それとも他のアプローチが適しているかを含めて、オーダーメイドでご提案させていただきます。